2019 みちのくの川ふたたび 


ヤマメの先にいるさかな
2019年3月


あきらかに体温が上昇している。身体が自分の身体ではない。

時折吹く風がヤケに冷たく感じる。

風邪をひいたようだ。

昨晩のビジネスホテルでの仕事がいけなかったのかもしれない。乾燥した部屋でマスクもせずに風呂上がりの薄着で深夜まで仕事をしていた。今朝起きたときに、喉に違和感を感じていた。

レンタカーを飛ばして到着した北の川の水位は普段と変わらないようだが、流れは強くなっている。

昨日は大雨だったから、今日はチャンスかもしれない。濁りもひどいほどではない。

先月来たときはまだ釣り人はだれも見かけなかったから、自分も竿を出さなかった。

今日は土手に車が止まっているし、対岸にも見かけている。

去年から大きく変わった点といえば、河原の葦やススキが刈り取られて綺麗に丸坊主になっていることだ。

川へのアプローチは非常に楽になったが、魚には影響が少なからずあるだろう。

ベストに入れた30枚以上のスプーンの重さが背中や腰にジットリと覆い被さってくる。

なかなか釣りに来れないから、妄想だけでスプーンが増えていくからだ。

「今日は釣れるかも知れない」

なんどもそう思った。なぜかそう思った。希望を抱いていたからかもしれない。

流れのヨレがある場所の水底では、銀鱗を身にまとった厳つい顔のサクラマスが遡上しようと潜んでいる様子がボクには見えている。その鼻っ面にスプーンをひらつかせて、苛立たせ、咥えさせてやるために、ひたすらアクションを加えたり、流し方を変えたりしてみる。

天気は曇りがちで、時折強風。水面が波立って通り過ぎる。流れは強まったり弱まったりする。上流の水門が動いているのか、それとも潮位か。

周りを見渡しても、誰もが黙々とルアーを投げている。釣れている様子は無く、他の釣り人も時折、ボクの方を見ている。きっと同じ事を考えているのだろう。

通りかかった釣り人が「今日、漁師が網をいれるんだってさ」と言っていた。

「この時期から入れるのは早すぎるよ」とも言っていた。

漁師が網を入れるというのは、魚がいるということだ。彼らはムダをしない。

この言葉で、くじけかけた心が立ち直った。

けれど…

11時半から4時まで、一本の河原の木のたもとで、文字通り、一本の木になってルアーを投げまくったが、桜鱒は釣れなかった。

帰りの新幹線で、ボクは予想通り病人になっていた。

END